住まいという、最大の遺品。生前整理から考える「2050年の暮らし」

はじめに
弊社も加盟している「2050 STANDARD HOUSE PROJECT」の企画にて、弊社代表の上野山が「生前整理・遺品整理」をテーマとした対談に参加いたしました。
人が亡くなった後に残るものは、家財道具だけではなく、土地や家、そこで積み重ねられてきた時間があります。本記事では、遺品整理士として現場に立ち続けてきた板倉氏や、株式会社三建の荒巻氏とともに、これからの「住まいと暮らしのしまい方」について語り合っています。 地方で家を建て、その後の暮らしにも関わり続ける住宅会社に何ができるのか。「2050 STANDARD HOUSE PROJECT」の視点から紐解く対談の模様をお届けします。
【対談参加者】
●株式会社R.I 代表取締役
遺品整理士・生前整理アドバイザー1級
板倉リナ 氏
●ORINAS(三洋住宅株式会社) 代表取締役
上野山喜之
●株式会社三建 広報責任者
荒巻巧 氏
●株式会社サンプロイノベーションラボ 本部長・株式会社LOCAS 取締役
ファシリテーター│コマツアキラ 氏
▼本対談にご参加いただいた板倉氏による特別セミナーを有田川町で開催します!
2026年9月26日(土)開催
「今から始める 生前整理セミナー」
>>詳細・お申し込みはこちらから
身近な経験が、仕事の出発点になった
遺品整理の仕事には、リサイクルや廃棄物処理などを手掛ける事業者も多く参入しています。しかし、板倉氏の経歴は、そこからは少し異なる道筋をたどっています。
板倉氏「セミナーでもお話ししている内容ですが、中学一年生の娘と小学三年生の息子を持つ、二児の母です。息子を出産したときの育休中に宅地建物取引士の勉強をして、三回目で資格を取りました。その勉強をしているうちに、空き家の問題や孤独死といった問題があることを知ったんですね。」
知識として知った課題が、現実のものとして目の前に現れたのは、その直後のことでした。親戚のおじが、一人で亡くなったのです。
板倉氏「近くに従兄が住んでいたのですが、夜勤のある仕事だったので、二、三日連絡が取れずにいる間に、持病があったようで、玄関先で亡くなっていました。十一月の、それほど暑くない時期でしたから、特殊清掃が必要になるようなものではありませんでした。それでも警察を呼んだり、賃貸の家でしたから片付けている間にも家賃が発生したりする。自分の仕事も生活もありながら、時間をかけてやっていたようです。後で従兄に話を聞くと、信頼できる事業者を知っていたら違ったかもしれない、こんなに時間と労力とお金をかけるくらいなら事業者に頼んだのに、と言っていました。身近にそういう人がいるのなら、世の中にはもっと困っている方がいるのだろうなと思ったんです。」
遺品整理士は、一般財団法人遺品整理士認定協会が認定する民間資格です。遺品整理の実務や関連する法規制に加え、遺品を単なる処分品としてではなく、故人の想いが込められたものとして扱う姿勢や、供養、ご遺族に寄り添う考え方についても学びます。
板倉氏「そういう仕事があることを知って、勉強をして資格を取り、起業しました。兵庫県の創業支援事業に採択していただいたのが、今のスタートです。」
不動産の知識と、片付けの実務。この二つを併せ持つことが、板倉氏の仕事の輪郭をつくっています。
板倉氏「もともとは不動産をやりたいと思って資格を取ったのですが、子どももいて土日に働くのは難しく、業界の経験もないので、宝の持ち腐れになっていました。それなら、自分にできること、片付けをしたり、寄り添ってケアをしたりする仕事ならできるかなと思ったんです。そのうちに、空き家をどうするのかという話にもなってきますから、宅建やFPの知識を持って、こういう不動産会社がありますよ、こうした方がいいですよとお伝えできる。そこは自分の強みかなと思っています。」
一円玉まで返す―信頼をどう担保するか
大切な人の持ち物を、家ごと他人に預ける。生前整理・遺品整理という仕事には、技術以上に信頼が問われます。
荒巻氏「遺品整理や生前整理で、自分の持っているものを買取再販の会社などにお願いするとなると、信用できるのだろうかと不安に思う方もいらっしゃると思うんです。板倉さんは、そこの信頼をどうやって担保されているのでしょうか。」
板倉氏「今のところは、口コミやご紹介でご依頼をいただくことが多いですね。」
荒巻氏「写真や動画をしっかり撮って、記録を残す。そのうえで誠実にやる。当たり前のようでいて、そこができていることは大きいと思います。」
板倉氏「私も当たり前だと思っていたのですが、一円玉や小銭は必ずどこかから見つかるんですよ。大きな食器棚の下に落ちていたり。今まで自分が入った現場で、現金が見つからなかったところはありません。知名度だけでは、実際の仕事ぶりまでは分かりません。貴重品の扱いについても、業者によって対応はさまざまだと聞きます。もちろん、きちんとされているところもたくさんあると思います。自分が当たり前だと思っていたことが当たり前ではないというのは、少し寂しいなと思うところです。だからこそ、ポリシーを持ってやっています。」
見つかった小銭は、金額の大小にかかわらず、すべて遺族のもとへ返されます。その一円玉が、思いがけない言葉を引き出すこともあります。
板倉氏「お客様も、そんな一円玉や小銭をもらっても困るわ、なんて言いながら受け取ってくださる。こんな細かいお金まで返してくれるんだ、正直に言ってくれてありがとうございます、と言われたことがあって。私からすると、えっ、という感じでした。」
タンスの奥にあった一万円札
家財の中には、家族すら把握していないものが残されています。片付けを他人に任せることへのためらいも、そこから生まれます。
コマツ氏「私は今、祖父母の家に住んでいるのですが、以前、古いタンスを処分しようと壊していたんです。そうしたら、聖徳太子の一万円札が舞ったんですよ。」
板倉氏「タンス預金ですね。」
コマツ氏「裏を開けたところの下がくっついているタイプで、そこに隠してあったんですね。それを見たときに、これは他人には任せられないな、と思ってしまった。でも板倉さんがおっしゃるように、全部写真を撮って、場合によっては動画まで撮りますということであれば、そこは信頼できるわけです。当時はまだ引っ越すぞという感覚だったので自分でやりましたが、あれから年も取りました。そうしたときに、信頼できる誰かがやってくださるというのは、ものすごく大きいと思います。」
地方の家特有の課題
2050 STANDARD HOUSE PROJECT に参加しているのは、地方に根を張る住宅会社です。そして地方には、都市部とは異なる事情があります。
コマツ氏「このプロジェクトに参加している会社は、東京の会社ではなく、地方の会社です。共通して掲げている目的の一つが地方創生なんですね。」
上野山「私たちの本社がある有田川町は、和歌山市内からさらに南へ一時間ほど行ったところにあります。山を見ればみかん畑が広がる、本当に美しいところです。若い方がたくさんいるかというとそうではありませんが、地域の経済の中心で、人が集まってくる。消えていく地方ではなく、地方の受け皿になる街だと思っています。」
美しい風景の一方で、住まいの条件は都市部とは大きく異なります。
上野山「ただ、この地域はほとんどが持ち家です。持ち家で一人暮らしをされている方も多く、孤独死や、その後の住まいの整理といった課題についても考えていく必要があります。しかも地方の家は驚くほど広い。どうして和室が三つもあるのですか、と聞かれることがあるのですが、つなげてお葬式をやるためなんですね。」
荒巻氏「昔は大家族でしたからね。それを一人で片付けるのは、とても難しいと思います。地方ならではの大きな課題のひとつではないでしょうか。」
子ども世代が都市部に出ていき、親世代だけが地方に残る。生前整理が必要だと分かっていても、動き出せないまま時間が過ぎていきます。
上野山「私たちの世代から見ますと、七十代でお元気な方が沢山いらっしゃいます。ただ、そういう方のお子さんは、大阪や東京など都会に働きに出ていて、帰ってこない可能性があります。
では、元気なうちに自分は何ができるのか。やっておかなければと思いながらも、なかなか手を付けられず、日々を過ごしている方も多いのではないでしょうか。そうしたことをみんなが知ることができれば、かなり安心できるのではないかと思います。」
生前整理は、物だけの話ではない
板倉氏「生前整理は、物だけではなく、自分のことや人間関係、家族との関係まで含めて整理していくものです。これから先をどう生きていきたいのか、自分自身を振り返る時間にもなると思っています。」
片付けの先にあるのは、何を残すのかという問いです。そして残るものは、必ずしも形のあるものとは限りません。
板倉氏「人生の最後に何が大事かといえば、やはり家族との思い出や絆ではないでしょうか。お金は持っていけませんし、最後に残るのは、お金よりも思い出です。ですから、家族とよりよく仲良く暮らしていくにはどうしたらいいのかを、自分の中で振り返っていただく時間も大事ですよ、と皆さんにお伝えできればと思っています。」
とはいえ、年齢を理由に最初の一歩をためらう方も少なくありません。
板倉氏「私はもう年だから、とおっしゃる方も多いのですが、何歳からでも、何を始めてもいい。ご高齢の方にもそう思っていただけたら、もっと地方が元気になるのではないかと思います。」
板倉氏の活動は、物の整理から、想いの整理へと広がっています。
荒巻氏「板倉さんは、お手紙を書くというところまで進められています。大事な方へのメッセージを書いたり、自分がこれまで大切にしてきたものや、その背景にある思いを整理したり。趣味のものなど、一般的な市場価値は高くなくても、ご本人にとっては大切なものがあります。日本中を探せば、その価値を分かってくださる方がいるかもしれない。そういうところとつなげたり、家族に対してこういう思いだったんだよ、ということを言語化してあげたりする。これはすごいことだと思います。」
住まいという、最大の遺品
家財の整理が進んでも、最後に残るのが住まいです。そして金額の面で見れば、それが最も大きな遺産になります。
上野山「金額の面で見れば、住まいは相続する財産の中でも非常に大きな存在です。住まいの行く末を決めないまま亡くなってしまうと、残された家族に大きな負担がかかることがあります。私たちのところによく来るのは、『解体しようと思うのだけれど、その先はどうしよう』という相談です。ただ、相談に来られる頃には、亡くなってから何年も経ち、家の傷みが進んでいることもあります。管理状態によっては、空き家に適用されていた固定資産税の住宅用地特例が受けられなくなる場合もあります。そうなる前に、ご存命のうちから、この家を将来どうしていくのかを考えておくことが大切ではないでしょうか。」
この地域で暮らす答えがある
住まいを引き渡した後も、住宅会社と住まい手の関係は続きます。地方の工務店にとって、その関係は建物だけにとどまるものではありません。
上野山「たとえば有田川町に移住してこられたら、私たちの担当者や社員が、その方の初めての友達になる。そこで地域コミュニティに迎え入れる。そういう役割を持っているのが、私たちORINASであり、三建さんであり、この2050 STANDARD HOUSE PROJECT に参加している工務店だと思うんですね。だからこそ私たちは、『この地域で暮らすこたえがある』というブランドミッションを掲げています。」
荒巻氏「私たちの商圏は加古川や大阪ですから、有田川町とは地域の事情も違います。それでも、地方工務店が考えている役割は、建物や資産だけではないというところは同じだと思うんです。暮らす場がなければ、そこでは暮らしませんから。その最初の窓口となる住宅会社が、地域とのつながりまで含めて住まい手を支えられる存在であること。そこを徹底してやっていくことが大事だと思います。」
コマツ氏 「2050 STANDARD HOUSE PROJECT というと、性能がいいだけというイメージを持たれることもありますが、私たちはそれだけで捉えていません。そこで暮らしていくにあたっての地方創生。2050年に向けて、地方で暮らすという選択肢を、今以上に豊かなものにしていきたいと考えています。地方で暮らす豊かさを、テクノロジーと地域のコミュニティ、その両面から支えていく。そこが一番大事なところだと思っています。」
おわりに
生前整理は、物を減らす作業ではありません。自分がどう生きてきたかを振り返り、家族との関係を整え、残される人の負担を軽くしていく営みです。
そして最後に残るのが、住まいという最大の遺品。傷んでからではなく、元気なうちに、しまい方まで決めておく。そのための入り口のひとつとして、家を建て、その後の暮らしを知る私たち住宅会社にも、できることがあるのではないでしょうか。
家を建てて引き渡すところで終わりにせず、その後の何十年、そしてその先まで一緒に考えること。これからも私たちは、地域の皆様の豊かな暮らしを支え続けてまいります。
対談にご参加いただいた板倉リナ氏をお招きし、特別セミナーを開催します!
今回のお話にもあった「何を残し、どう整理していくか」のヒントが詰まった、参加費無料のセミナーです。どなたでもお気軽にご参加ください。
【今から始める 生前整理セミナー】
日程:2026年9月26日(土)
時間:午前の部 10:30〜12:00
午後の部 14:00〜15:30
会場:有田川町地域交流センター
ALEC(アレック)


