「地域創生」をテーマに
和歌山の未来を考える
和歌山県で住宅の新築・リフォーム・不動産事業等を手掛ける三洋住宅株式会社(オリナスグループ)は、創立50周年に日頃の感謝を込めて、2022年10月9日きびドーム(和歌山県有田川町)にて、「50周年記念感謝祭」を開催いたしました。
感謝祭では、進行役に和歌山放送の中川智美アナウンサーを迎え、和歌山県在住の落語家である桂枝曾丸(しそまる)さん、和歌山大学観光学部教授で地域プロデュースと観光映像が専門の木川剛志さんをゲストに、落語の披露やトークセッション、パネルディスカッションを行いました。
22年連続で人口が減少する和歌山県。その要因は?
パネルディスカッションは、枝曾丸さん、木川教授、中川アナウンサー、弊社代表上野山の4人で行われ、和歌山県のさまざまな地域課題をテーマに話し合いました。
なかでも人口減少問題は深刻で、22年間連続で下がり続けています。 木川教授は、「日本全国と共通した問題もあれば、地域特有の問題もあり、両方が複合的に合わさって人口が減っている」と指摘。一番大きな要因として、公共交通機関の弱さを挙げ、「『電車がなくなったら車で行けばいい』という人も多いと思うが、子どもたちが学校に通う手段をどうするか。若い夫婦はそこまで考えて『そこには住めないな』という発想になる。公共交通機関の弱さが人口減少への悪循環を生むこともある」と危惧しました。
枝曾丸さんは、コロナ禍で利用者減が加速し、鉄道がさらに減便になってしまうのではないかと恐れる地域の方々の声を紹介。「地域の方々だけが抱えるには重たすぎる課題。鉄道を観光で復活させようとするなどいろいろな動きがあるが、人口が減少していくなかで、地域の魅力を町ぐるみだけではなく、私たち県民みんなが一緒になって見つけていかなければいけないと思う」と話しました。
もう一つ木川教授が挙げたのは、「大きな産業に依存した産業構造で、大企業がなくなると人口も減ってしまう」ということでした。働くところが少なく、大阪などの都会に若い人が流出してしまう現状があります。県外に進学した学生はそのまま県外で就職するケースが多く、上野山は「和歌山県内だけで見ていると、企業が学生さんと出会えるチャンスが少ない一方で、大阪で求人をかけると県外の学生さんが和歌山に来てくれることもあります」と話しました。
また、和歌山は、台風や津波、南海トラフ地震など、全国から見ても自然災害リスクが高いイメージを持たれていることも、人口減少に拍車がかからないかと懸念されるところ。2015年に福井から引っ越してきた木川教授は、知人たちから移住を心配された経験を振り返り、「外の人からはなかなか見えないでしょうが、実際に住んでみると、防災委員会など自治体の住民同士のつながりが強く、何かあったときに助け合うしくみがしっかりある」と移住前と後の印象の変化を話しました。
防災士としても活動する枝曾丸さんは、「どこに住んでいても災害はある。自分たちが暮らす家や町を、良く知ることでリスクから身を守ることも大事。いざ起きたときの身の守り方を家族ぐるみ、地域ぐるみで知る。知ることは安心にもつながる」と話しました。いざという時のために、自分たちの住まいの持つ底力を知ることも大切です。
「空き家率の高さ」「地価の下落」「住宅新築戸数の減少」…課題をポジティブに捉える
和歌山県は空き家率が20.3%と全国2位(2018年時点の総務省の調査)。江戸時代は全国有数の大都市で、もともと多くの人が住んでいたからこその空き家率の高さともいえます。
木川教授は「空き家率が高いということは、社会的ストックがあるけれども空いているという状態。空いているからこそ、拠点を作って何かをしたいと思ったらできる状況なので、ネガティブだけでなく、ポジティブに捉えたい数字です」と話しました。
上野山は、「日本では、建てた人が亡くなったりいなくなったりした後の中古住宅が流通することが、他の先進国と比べてダントツに少ない。空き家の構造や状態をしっかり調べた上で、次の人が安心して使えるしくみが整ってくると、住み継いでいく環境や文化ができてくると思う」と話しました。
住宅に関しては、空き家率の問題だけでなく、地価の下落が特に海岸近くの地域で進んでいることも問題として挙げられます。
木川教授は「ウォーターフロントの魅力を上手に生かせていないところがあるが、一方で、この価格でウォーターフロントの土地が買えるなら手頃だと考えて購入する人もいる。考え方によってはプラスに働く」とポジティブにも捉えました。
また、ここ20年ぐらいで、県内で住宅を新築する着工戸数が大きく減っているといいます。
木川教授は「子育て世代の人口が減っている以上に、新築にこだわらないリノベーションの考え方など、新しい発想が若い世代に広まっていることを表しているともいえる」と話します。
住宅以外でも、枝曾丸さんは和歌山市の「ぶらくり丁商店街」の店舗を例に挙げ、「シャッター街などと言われるが、古びた店舗を見て『このデザインは今に再現できないものだ』と、新しい考え方で古い建物をまた生かそうとする若い世代が多い。ポテンシャルはどんな風にでもこれから蘇らせることができるのではないか」と、着工戸数減少問題を、別の角度からとらえ、ポジティブな面に注目する話が続きました。
「確かに、この20年で町の景色って少し変わったかもしれませんが、今あるものを大事にしながら変わっている部分もありますよね」という中川アナウンサーの問いかけに、枝曾丸さんは「固定観念で固まっていた僕たちでは気付かない魅力を感じて移住してきている方たちから、こういう見方があるのかと、改めて教えられる部分がある。まだまだ可能性が広がるし、国内外問わずどんどん新しい方に入ってきてもらいたい」と期待を込めました。
住民が誇りを持てるまちづくりのためにできること
2018年に、国土交通省と内閣府が連携し、地方再生のモデル都市として全国から32都市を選定。建物のリノベーションを活発に進めていることもあり、モデル都市の一つに和歌山市が選ばれています。また、和歌山県は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、産業の再生と移住促進をしています。
木川教授は「行政がつくった戦略なので硬いなと思う。たとえば漁業にいくら予算を入れたか、それも大事なことだが、たとえば漁業の既存のイメージを変えて、それなら自分も働きたいと若者たちが思えるような形に変えていくことが大事なのではないか。それは行政ではなかなかできることではなく、民間の活力や、市民が町に対して持つ愛情で変わっていく部分だと思う」と話しました。
中川アナウンサーは、有田川町にUターンしてミカン農家を継ぎ、農家の仕事をしながら地元のミカンのPRの仕事もしている方の実例を挙げました。「地元にいないとできないことがあるという気付きをされて、この地で働く。そういう方がもっと増えてくると、町は活性化しますよね」と話しました。
一方で、木川教授は「和歌山は滅茶苦茶いいところなのに、和歌山の人はシャイなのか、『何でこんなところに来たの』と言われる」と話しました。枝曾丸さんは「和歌山の人には自虐的なようなところがある」と苦笑しつつ、「和歌山は観光分野に結構予算を付けて頑張っているのに、数字がなかなか伸びてこなかったが、近頃やっと魅力度ランキングの順位が少し上がってきたと聞く。外からそう見てもらえると私たちの自信にもつながる。まずは私たちが自信を持つことが大事ですね」と話しました。
いいところがたくさんあって、誇りに思える町であるために。地域の受け皿となる企業の役割とはどんなものでしょうか。
上野山は「ここの生活って私たちが思っているほど悪くない。和歌山での暮らしを本当に楽しんで来てくれる方もいて、弊社に兵庫県から二人入ってきてくれた。私たちが考えているほど、こちらに飛び込んでくるハードルは高くないのだと感じる。今日の会場にも来ている内定者の女性は、和歌山大学の学生さんで大阪から来ていて、地域創生への私たちの思いを話したら共感して弊社を選んでくれた。いろいろな生き方、人生観があるから、ちょっとしたことがきっかけになり得て、会社に根付いてくれる。事業内容は都会の会社にも負けてはいないと思っているので、それをしっかりと発信していかないといけないと思う」と話しました。
和歌山大学に入学した学生たちも、卒業すると都会に行き就職していくのがこれまでの主流でしたが、逆に全国から和歌山に学生が集まり、和歌山で未来を築いていくという流れが増えていくことが求められます。和歌山大学出身だという中川アナウンサーは「入ってきた学生さんたちから、『和歌山がこんなにいいところだと知って、もっとPRしたくなりました』と聞くことが本当に多い」と話しました。
木川教授は学生たちと炭焼きの見学に行ったときのことを振り返って、「険しい山を登ることになり、もう二度と行きたくないだろうと思っていたら『山登りをしたのが一番楽しかった』と言う。こんなの大変だろうと思うことを意外と楽しむ若い人たちが多い」というエピソードを話しました。
給料の多さは関係なく、自分の仕事が世界の中でどんな大事なことにつながるのか、自分なりの立ち位置を見つける今の若者たち。木川教授は「彼らが和歌山の人たちともっとコミュニケーションをとっていけば、実はもっと学べる場所と、生きる場所があるのではないか」と期待を込めました。枝曾丸さんも、古座川町で数十年ぶりに盆踊りを復活させた移住者の若者たちの例を挙げ、「若さは何物にも代えがたいもの。若者たちの意見を聞き入れた地域の人たちもすごいが、文化を受け継いで形にすることで、若者たちの大きな自信になると思う」と話しました。
地域創生のための循環のスタートを!
これまでのまちづくりのなかでは、若者たちが空回りしがちで、地域の中で頑張って、最後には諦めて戻っていく、ある意味「やりがい搾取」的な働き方がありました。
木川教授は「若者たちの見ている世界は間違っていなく、ただ大人たちからの助けがたりなかった。この地域のためになることだと思ったら、地域に根差している企業にもっと支援してほしい。支援すると言っても、ただお金を渡すだけではなく、しっかりと経済の形に回すことを一緒に考えられれば、地域は元気になっていくと思う。ORINAS GROUPさんのような地元の企業が、若者たちの目指すものを一緒にやることによって地域に貢献する。そして地元の方々がそれを見て、頑張ってやっている企業なのだと知り、応援する。こういう回り方をつくることが必要。今日のイベントがその循環のスタートになることを期待したい」と話しました。
また、枝曾丸さんは、有田川町清水地区の山椒農家が減少しているため、若者を呼ぶために行政がプロジェクトチームを立ち上げたことを紹介。”山椒の仕事の空き時間に桑の葉のお茶づくり、庭木の剪定の仕事を紹介することで、安定した収入につながるように”ということを進め、それを広く発信するプロジェクトなのだそう。「新しい考え方や先進的な技術を入れることで、また新たな形でこの町の魅力が生み出されていくのではないか。上の世代も下の世代も知っている私たち世代が立ち上がって、つなぎ役になっていきたい」と意気込みました。
古民家再生をライフワークにしてきた上野山は、「古民家を残すことが地域の景観を残して、魅力を残すことになると思うが、お金もかかることだし難しくてなかなか進まない。どうしたらいいかを常に悩みながらやっている。今日のように自分たちの思いを発信し、こんなこと、あんなことをしたらいいのではないか、こんな使い方があるね、というアイデアを出し合ってもらうことで、地域創生への答えが生まれてくるような気がした。答えを探すORINASをこれからも応援していただけたらありがたい」と締めくくりました。
若者たちや地元の方が和歌山の未来を共に考え進化し続けていく次の行動へのヒントが満載となった今回のパネルディスカッション。ORINAS GROUPの次の50年に向けて、地域創生のための循環の第一歩となりました。