画家 安野光雅さんと私

ラジオ「日曜喫茶室」

以前、NHK-FMで毎週日曜日の昼に放送されていた「日曜喫茶室」という番組を愛聴していました。

放送作家のはかま満緒さんが喫茶店のマスター役を務め、画家の安野光雅さんが常連客という設定で、毎週様々な分野で活躍するゲストとの軽妙なトークを楽しませてくれました。安野さんは、気さくな人柄で自由な発想から生まれるコメントが魅力的でした。


2020年に94歳で亡くなられた安野光雅さん

安野光雅さんとの出会い

もう20年以上前の夏の暑い日のことです。

有田市の国道を車で走っていたとき炎天下の中を二人で歩いている男性が目に留まりました。ふと顔を見ると安野光雅さんのように見えたのです。その時はそのまま通り過ぎたのですが、本人かどうか気になりだしてUターンして確かめに戻りました。幸い、二人とはコンビニの駐車場で会うことができました。

思い切って「安野さんですか?」と声をかけると、「そうです」とのお返事。「どちらへ行かれるのですか?」とお尋ねすると雑誌の仕事でみかん山を描きに来たとのことでした。

「今の季節はみかんはありませんが…」と言うと、安野さんはにこやかに「大丈夫です、想像で描けますから」とのことでした。

「鞠と殿さま」

その時の安野さんとの出会いは、長い間すっかり忘れていました。

しかし先日、津和野へ旅行して安野光雅美術館を訪れた際、その時に描かれた絵が展示されていたのです。


『鞠と殿さま』安野光雅

「鞠と殿さま」と題されたその絵には、当時の旅について綴られた短文が添えられ、なんと私との会話も載っていました。今回の旅行でたまたまこの絵を見つけたおかげで安野さんとのひとときの出会いを鮮明に思い出すことができました。

 

-ORINAS MAGAZINE2025年6月号より-

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